社会保障・税一体改革案に断固反対の理事会声明

長野県保険医協会では、政府・与党が6月30日の社会保障改革検討本部で決定、7月1日に閣議報告された「社会保障・税一体改革成案」に対して、理事会として声明を7月4日付で発表するとともに、内閣総理大臣、厚生労働大臣、財務大臣及び地元選出国会議員に対して送付、報道機関にも伝えた。声明は「成案は日本の社会保障制度を大きく変質させる問題を孕んでいる」として主要4点の問題点を指摘している。


消費税増税ありきの「社会保障と税の一体改革案」に断固反対する

  2011年7月4日
  長野県保険医協会 理事会
   政府・与党は6月30日の社会保障改革検討本部で「社会保障と税の一体改革案」を決定した。首相は本部会議のあいさつで、社会保障と税の一体改革の成案決定を「歴史的」と語ったと報道されている。確かに、今回の成案は日本の社会保障制度を大きく変質させる問題を孕んでいるといった意味で「歴史的」であり、長野県保険医協会では以下の問題点を指摘するとともに本案の白紙撤回を求めるものである。
 第一の問題として、社会保障制度の基本的考え方について、成案では「自助・共助・公助の最適のバランスに留意し」とあるが、その本質は本案のベースとなった厚生労働省の「社会保障制度改革の方向性と具体策」に示されているように社会保障制度が自助を基本とし、共助が補完し、それでもなお困窮する国民に対して一定の要件下で公助が出動するといった理念を強調していることである。本来、社会保障は憲法25 条の生存権の理念にもとづくべきものであり、今回の改革案は「助け合い」の名の下に国の責任を大きく後退させる考え方である。
第二に、「安定財源確保」を名目に消費税を2010年代半ばまでに10%に引き上げ、消費税の使途を社会保障財源化することを明記したことである。
 税制全体の抜本改革として、個人所得税、法人課税、資産課税、地方税制といった検討の方向性は示したものの、これまでの議論の経過を見ても消費税増税議論だけが先行してきた。つまり、社会保障と税の一体改革と銘打ってはいるが、その基本は国と大企業の負担を軽減するために消費税増税により国民に広く負担を求めるものである。社会保障の安定財源と財政健全化の同時達成のためには、社会保障4経費(医療・介護・年金・子育て)にかかる消費税率は確実に上昇することとなる。消費税と社会保障給付をリンクさせる仕組みを構築し、消費税率を上げるのか、それとも社会保障の充実を我慢するのかといった二者択一を国民に迫ることとなる。社会保障改革の基本的な考え方にもふれられているように、社会保障には「セーフティネットに生じたほころび」を正すために「所得の再分配機能の強化」が必要であり、その原則に反する消費税は、例えそれが社会保障目的税とされたとしても財源には相応しくない。 また、震災により日本全体の景気が落ち込んでいる中で消費税増税計画を打ち出すことは景気悪化に拍車をかける愚策である。財源問題は徹底的な無駄の削除と所得税、法人税など税制全般の改革、保険料体系の見直しなど総合的、抜本的に検討を加えた上で、国民的議論に付すべきであり、消費税増税ありきの方針には断固反対する。
 第三に社会保障・税に関わる共通番号制度(マイナンバー)の早期導入である。医療、介護、保育などの年間費用の総額に上限を設ける「総合合算制度」の導入なども口実に上げられるが、これは共通番号制度でなくともできることである。共通番号制は社会保障給付と納税・納付に係わる個人データを行政が「名寄せ・突合」できるシステムである。その目的として「給付と負担の公正性、明確性を確保する」とあるが、将来的には「社会保障個人会計」創設への道筋をつけ、給付抑制と応益負担原則を強化しつつ、個人の負担に応じた範囲内で保険給付に制限を加え、範囲を超えたものは自費(免責)とするといった制度への転換も危惧される。
 第四に医療分野の個別の内容では、国民が安心できる医療制度のビジョンが提示されるわけでもなく、かつての政権が打ち出した施策の手直しに過ぎないものばかりが目立つ。今回、特に問題なのは外来受診時の定額負担の導入であるが、2002年の改定健康保険法の附則2条に、保険給付は「将来にわたり100分の70を維持する」と明記されているにもかかわらず、本制度の導入により実質3割負担を超えることになる。高額療養費制度の拡充に充当する名目であるが、定額負担額は長期高額の医療費に連動して引き上げられることは明白である。これは患者負担の軽減を求める国民の声に逆行するものである。また、「医薬品の患者負担の見直し」が項目に挙げられているが、かぜ薬や湿布薬などに公的保険は適用しないという、過去に何度も提案されてきた「保険免責制度」につながりかねない。更に、サービス提供体制の効率化・重点化と機能強化と称して平均在院日数の短縮や外来受診の適正化と病院・診療所の外来機能の役割分担などを進めることで地域医療体制への多大な影響が懸念される。
 以上のことから、今回の改革案は医療現場や患者・国民の視点とは全くかけ離れたものであり、十分な議論が尽くされておらず拙速といえる。このまま改革を実施することは、国民が真に必要とする医療制度のあり方を示さずに国の責任を国民に転嫁するばかりか、社会保障制度の理念を変質させるものである。本会では、政府が「社会保障一体改革」を抜本的に見直し、憲法25条の生存権を基本に国民の生命と生活を最優先する新たな社会保障ビジョンの策定を、国民的な議論のもとで進めることを強く求めるものである。
以上